白井の三本松
今からおよそ四百年のむかし。
あちこちで戦さがあって、世はみだれにみだれていた。
そのころ、伊久美の白井に、大橋源太というさむらいが住んでいた。
ある年のくれのこと。
源太は、いのししがりに出かけようと、家の前の松の木のところに、弓矢をたてかけておいた。そこへ、二人のさむらいが、せかせかとやってきて、松の木のそばを通るとき、一人が弓をけとばしてしまった。けれども、それを気にしているひまもないらしく、いそぎ足にその場を通りすぎようとした。
それを見た源太は、ひたいに青すじたてて、「待てっ。そこのさむらい。」と、大声で呼びとめた。
二人のさむらいが、ふりむいた。「武士のたましいである弓矢を足にかけ、そのまま行きすぎるとは無礼であろう。」源太がいうと、年上らしいさむらいが、
「これは、これは。せっ者がわろうござった。急ぎの旅ゆえ、なにとぞごかんべんを。」
と、わびた。けれども、源太は、腹のむしがおさまらぬと見えて、「わびるとあらば、ゆるしもしようが、何者だ。名を名乗れ。」と、しつこくいう。
「いや、我らは、殿の命で道を急ぐ者、姓名だけは、おゆるし願いたい。」
「なに。名を名乗れぬと。ならばゆるさん。」「どうしてもゆるさぬといわれるのか。」
「おう。」と、源太は刀のつかに手をかけた。
若いさむらいが何をとばかり、相手になろうとするのを年上のさむらいがおしとどめた。
「この場は、せっ者にまかせて、先をいそげ。一刻も早く使いをはたさねばならん。」
若いさむらいを、先に行かせると、年上のさむらいは、源太にむかって刀をぬいた。
はげしくきりむすんだが、源太の勢いが強く、年上のさむらいは、切りたてられて、
とてもかなわぬと、逃げ出してしまった。
「逃げ出すとは、ひきょうなやつ。」
源太は、弓をひきしぼると、さむらいのうしろ姿にむかって、ひょうと矢をはなった。
はなたれた矢は、さむらいのかたにぶすりとつきたった。がくっとさむらいはひざまづいたが、またたちあがると、いっさんに逃げだした。
「待てっ。」と、源太はそれを追いかける。
大平までくると、そのさむらいは、力つきてばったり倒れてしまった。追いついた源太は、そのさむらいをめった切りにして、殺してしまった。
二人のさむらいは、遠州の犬居の城のさむらいだった。
遠州の犬居で、戦さが起こって、犬居の城主は、石神の城主、石神兎角之助に助けを求めるため、二人のさむらいを使いに出したのだった。
二人は、尾上重蔵と新石衛門といった。年上の重蔵は、その旅の途中源太の手にかかってはてたのだった。
村びとたちは、あわれに思って、大平に、重蔵の墓をたてて、その霊をなぐさめた。
そして、源太の家の三本松は、だれいうとなく、
白井小路のまつ三本
あの松たがまつ
しろい源太のてかけまつ
と、うたわれるようになった。後のちまで、ひよどり祭りのとき、おどりにあわせて、うたうようになったという。