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川根の民話「六面観音」

六面観音


むかし、むかし
家山にある野守の池の水は、雨が降るたびにあふれました。大雨がふれば池の水ばかりではありません。大井川も堤防をきって、ドドッと村をおそうのでした。そのため、畑や田んぼの作物は流れるし、家の中は水びたしになるし、それはそれは村のしゅうはこまっていました。

そのころ、村にはたいへんうすきみの悪いことがありました。それは、ときどき夜になると池のはたで、ボワーッと青白い光がたちのぼり、きみ悪く池の水面をてらし出すのです。この光が出ると、ふしぎなことに、きまって次の日から雨が降り出し池や川の水があふれ出して、村は大水におそわれるのでした。

「池のはたから出るきみの悪い光は、何ずら?」

「いつも、大雨の前の晩に出るみたいだなあ。」

「墓場に出る火みたいだぜん。」

「だれか、人でもうめたずらか。」

「それにしても、うすきみん悪いなあ。」

だれもが、大雨の前に出る光には、ふしぎがっていました。なんにしてもきみの悪いことだと、よほどのことがないかぎり、池の向う岸には近づこうとはしませんでした。


ある日のこと。村の若いしゅうが集まって、池のはたの話になりました。

「何ずら、何かあそこにうまってるじゃあないずらか?」

「あの光りぐあいじゃあ、金でもうまってるかも知れんなあ。」

「そうだかも知れん。」

金だ、小判だということになると、もう、うすきみが悪いなんていっていられません。それにいせいのいい若いしゅうのこと、「ほってみずかい。」ということになり、若いしゅうはくわをかついでさっそく池のはたへ出かけてゆきました。

「この辺だっけなあ。」

「もうちっとこっちじゃあないか。」

「どうだ、小判は出てこんか。」

そんなことを言いながら、あっちだ、こっちだと、あたりをほじくり返してみましたが、何も出てきませんでした。出るのは、石ころばかりでした。

「何にもでてこんゃないか。」

「場所んちがうじゃないか。」

「やっぱ、光ん出てるときに来にゃあ、場所はわからんなあ。」

「そうしざあ。これじゃあ、くたびれもうけだ。」

若いしゅうは、次の光が立ちのぼるときにまたほることにして、それぞれくわをかついでひきあげていきました。

それから、何日かののち、夕方からどす黒い雲が空一面をおおいはじめました。 村の若いしゅうは、ふたたび集まりました。

「おいおい!へんな空もようになってきたぞ。」

「今夜あたり出そうだなあ。」

若いしゅうはくわをかついで、池をみおろす小高い丘の上にのぼりました。もう日はくれて、黒い雲はすっかり空をおおいつくしていました。くらやみがあたりをしずかにつつみ、池の水面もやみの中にとけこんでいきました。

里にともしびが、一つ二つとともりはじめました。若いしゅうは、地べたに腰をおろし、まっくらな池をながめて、今か今かと光が立ちのぼるのを待っていました。

どのくらい時がたったでしょう。突然、バサバサッと近くで音がしました。若いしゅうは、ギクッとしてくらがりで顔を見合わせました。

「カアッカアッカアッ」

「からすか。」

一同むねをなでおろしました。その後も夜がらすが何羽もなき出しました。

「ばかに、急にからすのやつんさわぎはじめたなあ。」

「あいつあ、昼間だっていやなやつだ。夜なかれると、よけいにたまらんなあ。」

「まったくだ。」

若いしゅうが、そんな話をしている時、池の向う岸から、ポーッと青白い光がたちあがりました。池の水面が、青黒いかがみのように光りはじめました。

「あっ。」

「出たっ、出たっ。」

「あそこだ。あそこをほりゃあよいぞ。」

「それ急げ。」

若いしゅうは、急いでくわをかついで丘をくだり、田んぼのあぜをかけぬけ、池のほとりをまわって、光の出てくる向う岸へと向いました。
近づいてみると、木の根元からボーッと光の柱が立ちのぼっていました。

「それっ、そこだ、そこをほれ。」

若いしゅうは、一生けん命ほりました。なかの一人が光の根元にくわをいると、光はパッと消えて、ふたたびしんのやみになりました。

「あれっ。」

「消えちまったぞ。」

「まっくらで、なにんなんだか、さっぱりわからん。」

「火をもせ、木をはやく集めよ。」

若いしゅうは、手さぐりであたりにあった木をあつめ、火をつけました。パチパチパチッ火がもえ出しました。

「火を消さんように、火の番をするしゅうと、ほるしゅうにわかれてやらざあ。」

「ほいじゃあ、おれとおまえんほって、あとのしゅうは、火を消さんようにしてくりょう。たのむぞ。」

「よっこらしょ、よっこらしょ。」

「それ出てこい、大判、小判。」

こんなことをいいながらほっていると、ひとりの若いしゅうのくわの先が、コツッと何かにあたりました。

「何かあったぞ。」

「えっ、あったか。」

「あかりをもってきてくりょう。」

ひとりが火をぼうきれにうつして、たいまつがわりにもってきました。

「なんだ、石んみたいだぜん。」

「なに、ほりだしてみにゃあわからん。」

若いしゅうは、せっせと土をかき出し、どろまみれの大きな石をほり出しました。

「やっぱし、ただの石か。」

がっかりしながら、石の土をはらいのけたひとりが、「あれ!何かがきざんであるぞ。」とあかりをよせてみました。

「どれどれ。」

若いしゅうは、のぞきこみました。すると、石には六つの顔をもった観音さんがきざんでありました。

「なんだ。どろまみれの観音さんか。しょんない、しょんない、一文にもなりゃあしんわあ。」

「そこらへんへ、ざぼおっておきゃあよいわあ。」

「それだけえが、あの光りゃあなんだっけだら。」

「よいわあ、そんなことあ。何にも出けんだで。雨も降ってきたし、ずんずん帰らざあ。」

若いしゅうは、そういって、ぬれながらがっかりして家に帰っていきました。
そして、よく日、朝からどしゃ降りの大雨になり、池の水はあふれあたりの田んぼや畑は水びたしになり、大井川の水もみるみるうちに水かさをまして、昼ごろにはつつみをやぶり、ドドドドドッと村の中にいきおいよく流れこんできました。

「おおぃ、つつみんきれたぞう。」

「山へにぎょうよう。」

村は、今までにない大水に大さわぎになりました。
雨がやんで、水がひき、三,四日たったころ、村のしゅうはつつみをなおす仕事に出ました。仕事がすむと、村のしゅうはよりあつまって相談しました。

「これっから、こんな大水にやられちゃあ、たまらんなあ。」

「つくり物は、だめんなっちまうし、困ったこんだ。」

「あんな大水をおさえられる土手をつくるのもたいへんだなあ。」

「川ばっかじゃない。池の水があふれ出るにゃあ、まいっちまう。」

村のしゅうは、これからどうしたらいいものか相談し合いました。
そのうち、ひとりがいいました。

「川の土手に水をしずめてくれる観音さんを、おまつりしたらどうずら、それで二度とこんなにならんようにお願いしてみりゃあ・・。」

「そうだなあ、それんよいかもしれんなあ。」

さっそく村のしゅうは、石屋にたのんで、観音さんをきざんでもらうことにしました。
何日かして、まあたあらしい観音さまができあがりました。

「わあっ、りっぱな観音さんができたなあ。」

村のしゅうは、よろこんで川を見おろす土手の上に、観音さんをまつりました。
ところが、つぎの日の朝、村の若いしゅうが、土手にいってみると、きのうまつったばかりの新しい観音さんが、どろまるけのきたない観音さんにかわっていました。

「なんだこりゃあ。」

そのきたない観音さんは、池のはたで若いしゅうにほり出され、ほおっておかれた六面観音さんだったのです。その若いしゅうは、きつねにでもつままれたように、目をぱちくりしていました。
そのうちに、これは大変とばかり、村のしゅうに知らせに走りました。

「たいへんだあ。新しい観音さんがどっかへ行っちまったあ。」

若いしゅうは大声で村じゅうに知らせまわりました。

「そんなばかなことがあるもんか。」

「だれも、観音さんをもっていくこともあるまいに。」

村のしゅうが、がやがやいいながら、土手の上にやってくると、なるほど若いしゅうのいう通りでした。村のしゅうはおどろきました。

「いったい、これはどうしたこと。」

「こんきたない観音さんが、新しい観音さんを追いはらって、自分がちょこんとここへすわったのかのう。」

「きみょうなこともあるもんだ。」

首をひねりひねりそんな話をしていると、ひとりの男が、ひざをたたいていいました。

「こりゃあ、池のはたから若いしゅうがほったという観音さんじゃのう。いままで、池のはたで、大水が出る前の夜、光を出していたのは、この観音さんじゃあないか。わしらに、大水がでるぞとおしえてくれてたのじゃ。きっと。」

村のしゅうも、そうそう、そうだったのかと気がついて、六面観音さんをだいじにおまいりすることにしました。
それからは、もう、池のはたから光がたちのぼることもなくなりました。
この観音さまが、大水をぴたりとおさえて、村を守りつづけたということです。

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