琵琶(びわ)の祠(ほこら)
むかし、むかしある日のこと。
鵜網の里に、みすぼらしい衣をきて、琵琶をかかえた盲人が、よたよたとやってきた。
「なんだい、あのこじき坊主みたいのは。」
「へんなものかかえているなあ。」
「まったくわけのわからんひとが、村にまよいこんできたもんだ。」
村びとたちは、白い眼で盲人をながめてひそひそばなしをかわしていた。
盲人は、村うちを、ぶらぶらと歩きまわり家々の軒をかりては、夜を過していた。
ときどき、ぼろんぼろんと力のない琵琶の音が、かなしく村うちにながれたりした。
そのうちに、村びとたちは、この盲人が気の毒になってきて、
「どこのひとか、どうしてわしらの村へきたのかしらんが、これも何かの縁ずら。」
「この村に住んでもらったら。」
と、小さな家をたてて建ててやった。
「お前さんは、どこから来たんじゃ。身よりはないのかのう。」
村びとたちが、身の上をたずねても、盲人は悲しそうな顔をするだけで、何も語らなかった。
山の中の小さな村のことだから、村びとたちは、琵琶など見たことも聞いたこともない。
「坊さんでもないし、あんなものいつもかかえて、あの人いったい何をする人かのう。」
村びとたちは、首をかしげていた。
鵜網に住みついた盲人は、そのうち村びとたちの気心もわかって、だんだんうちとけるそぶりを見せはじめた。
そして、ときどき、琵琶をひきながら歌をうたうようになった。
村びとたちはめずらしがって、その家に集まってきて、聞きほれるようになった。
「ええ音じゃのう。心が洗われて行くようじゃ。また明日もきかせておくれ。こりゃあ、おらん畑でとれたもんだけえが、食べてみてくれや。」
村びとたちは、そういって、食べ物をおいていく。
村に楽しみができたと、村びとたちは喜んで、なにかと盲人の世話をしてやるようになった。
こうして何年かたった。
盲人は長年の苦労がたたってか、どっと病の床についてしまった。
その日から、琵琶の音はぱったりと消えた。
村びとたちは心配して、行ってみると、もう盲人は動くこともできないほどになっていた。
村びとたちは、かわるがわるに、めしを運んだり、身のまわりの世話をして、めんどうをみてやっていた。
「お前さんは、ほんとうに身よりがないのかのう。あればさがしてやるが・・・。」
村びとたちがそうたずねても、盲人はただ首をふるばかりだった。
そのうちに、村びとたちの看病もむなしく、盲人の命は、きょうか明日かということになった。
村びとたちが、まくらもとに心配顔ですわりこんでいると、盲人は、かすかな声で、
「村のしゅうには、お世話になった。わしが死んだら、この里に葬ってくださらんか。そうしたら、必ず目の病で苦しむ人を助けてやるで・・・。」
そういい終わると、がっくりと息をひきとった。
村びとたちは盲人の死を悲しんで、ねんごろにとむらい、祠を建ててやった。
後に、この祠には、目の病で苦しむ人たちがおまいりにやってくるようになったという。